top of page

撮影日記③ 女性たちのお念佛


                         映像「梅平のお念佛」(2020年3月22日) 


「美炎・馬頭琴の調べ」10回記念ドキュメンタリー映像制作プロジェクト、記録撮影班の纐纈です。


撮影日記②からひと月と少し経った3月下旬に再び梅平を訪れました。前回の真っ白に凍りついていた冬の光景から、生きものたちが動き出し、植物たちもモゾモゾと芽吹く準備をしていることが感じられるような光景をたくさん見つけました。


3月22日は、年に2回あるお念佛の日でした。お当番の人が、梅平の北端の小高い場所にある高松地蔵堂のお掃除とお供えをします。お地蔵様は安産の仏様でもあることから、梅平の女性たちがお祀りして大切にされてきました。そして一家の女性がひとりずつ集まり、皆でお念佛を唱えます。以前はそのままお堂でしていたそうですが、数年前から、お堂までの急坂を登るのが大変になってきたということで、集落の中の普段は作業場として使われている場所に替わっています。


    撮影:廣田美千香 

                                      撮影:石井和彦

大金敬子さんが鳴らす鐘の音頭でお念佛が始まりました。


光明遍上(こうみょう へんじょう)

十方世界(じっぽう せかい)

念佛衆上(ねんぶつ しゅうじょう)

摂取不捨(せっしゅ ふしゃ)

南阿弥陀(なむあみだ)

なむあみだ なむあみだぶつ

なむあみだ なむあみだぶつ

なむあみだ

(12回)

なむじぞう だいぼさつ

なむじぞう だいぼさつ

なむあみだ

なむあみだぶつ

なむあみだぶつ

なむあみだ

(12回)

以前、東北地方で数珠を回しながらお念佛を唱えている様子を見たことがあります。何度も繰り返すので、数珠で回数を数えていました。ここ梅平では、歴代から引き継がれているオロナイン(切り傷、あかぎれなどに効く塗り薬)の蓋で数を数えます。使い込まれたオロナインの蓋!


                                      撮影:石井和彦


想像と違っていたのは、みなさんつぶやくような声でお念佛を唱えていることでした。カメラマイクでは鐘の音が前面に出ていて、お念佛の印象はぼんやりしていたのですが、東京に戻って、桜井利子さんにつけていただいたピンマイクの音声を聞き返していたら、お念佛の声と共に、梅平の光景が目の前にパーッと浮かび上がってきたのです。同じリズム、同じ抑揚で何度も繰り返される〝なむあみだぶつ〟は、日々の暮らしが繰り返されるのと同じように、一見地味で単調ですが、でもそこには、ありとあらゆるものが含まれていて、幸せの響きだと思いました。

数年前、世代交代となり今は50代、60代の方が中心になっています。少し前までは、お念佛の日には当番の人がお供え用の白い団子とみんなのお茶菓子用には餡子を絡めた団子を手作りするのが恒例だったそうですが、今は買ったり、作ったものを持ち寄ったりと、無理のない形にしています。細かいことは、いろいろと変わりながらも、こうして梅平の女性たちがお念佛を続けているのは、みんなでのおしゃべりが楽しいから、という言葉がありました。


きっと昔から、農繁期や家のことで忙しく立ち働く女性たちが、お念佛の時は大手を振って家から離れ、女性たちだけで心ゆくままに話し込み、笑い合っていた様子を想像します。なみあみだぶつ、の響きには、これまでの女性たちの時が刻まれているのだと思いました。


                                       撮影:石井和彦


ドキュメンタリー映像制作プロジェクトの応援をお願いいたします♪


閲覧数:165回

馬頭の棚田を吹きぬける

 心地よい風にのせて

bottom of page